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2022年6月25日

ゼニタナゴの密放流を実証した論文を発表


 (一社)水生生物保全協会(宮城県利府町)は,生物多様性保全ネットワーク新潟(新潟市)およびNPO法人 シナイモツゴ郷の会(宮城県大崎市)と共著で,絶滅した地域から再発見されたゼニタナゴが,既知の生息地で密漁されたものに由来する,つまり密放流されたものであるということを,遺伝子解析および関係者の証言により実証しました.この報告は魚類学と水産学を扱う国際誌 Fishes 短報として掲載されました.

 近年,淡水魚飼育マニアや釣り師の仕業と疑われる,タナゴ類の不自然な分布拡大が相次いでいます.タナゴ類は美しい婚姻色を示すため人気があり,マニアが自分だけの秘密の「マイ・ポイント」を作り出すために密放流を繰り返しているものと疑われます.このような行為はタナゴ類の自然の多様性を乱すばかりか,魚病をまん延させるなど予想外の事態のもとになる恐れがあります.日本列島の複雑な自然とその歴史に育まれてきたタナゴ類の多様性は,環境の悪化やブラックバスの全国的な密放流/違法放流の広がりにより危機におちいり,さらに今,マニアによる密放流にために,とどめを刺されようとしています.近年のタナゴ類の分布の不自然さは,しかしながら,遺伝的に明らかにすることはできても,それが密放流のせいなのか,他の魚類(アユやヘラブナなど)の放流種苗にまぎれこんできたものなのか,はっきりしませんでした.
 ゼニタナゴは関東地方と新潟県以北の北日本(青森県を除く)に特産する希少淡水魚で,環境省レッドリストで絶滅危惧種IAに指定されています.関東地方ではすでに絶滅し,東北地方でも数ヶ所しか生息地は残っていません.新潟県でも1930年代以降の記録がなく,絶滅したものと考えられてきました.著者の1人は2019年に新潟県内で本種を採集し,生き残りの再発見ではないかと期待がふくらみました.しかし遺伝子型を調べたところ,宮城県大崎市の個体にしかみられない遺伝子型が検出され,自然の分布ではなく移植という疑いが濃厚となりました.ただし,遺伝子型だけでは,どちらからどちらへの移植なのかはっきりしません.魚類を捕ることが禁止されている,宮城県大崎市のゼニタナゴ生息地では,数年前に密漁が摘発されています.そのときの,居住地や密漁の目的についての証言から,新潟県内でみつかったゼニタナゴは,宮城県大崎市から密漁してそこへ放流したものであることがわかりました.



図1 新潟県内で採集されたゼニタナゴ.井上信夫撮影.


図2 新潟県内に生息しているゼニタナゴ(星印)は宮城県大崎市鹿島台の生息地(黒丸)から密漁されて密放流されたもの.白丸は2010年ごろまでに生き残っていた他の生息地.濃い灰色はその時点で生息地が知られていた県.薄い灰色は絶滅した都県.


 ゼニタナゴは保全すべき絶滅危惧種ですが,密放流により分布が乱されると,保全のための優先順位付けに混乱が生じます.遺伝子解析や関係者の証言などがないと,優先すべき自然の生息地そっちのけで,密放流された個体ばかり,知らずに保全したりということになりかねません.私たちの報告は,これまで確たる証拠がなかった,マニアによる意図的なタナゴ類の密放流が現実にあることを,初めて実証したものです.

論文表題  Unauthorized stocking of an endangered bitterling Acheilognathus typus to an irrigation pond detected and substantiated by biological and human lines of evidence
著者 斉藤憲治, 井上信夫, 長谷川政智
掲載誌 Fishes 7巻, art. 150 (2022年6月25日発行)
論文へのアクセス http://doi.org/10.3390/fishes7040150


本件の問い合わせ先  (一社)水生生物保全協会
  TEL/FAX:  022-255-9275      





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