論 文 公 表 の ご 報 告


2020年8月20日

ブラックバス駆除後,ため池でタナゴが復活(宮城県栗原市)

― 自然の回復力を示す論文を発表 ―


 (一社)水生生物保全協会(宮城県利府町)は,経団連自然保護基金の助成を受け,(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団との共同調査により,宮城県栗原市の農業ため池で,ブラックバスを駆除したあとに,絶滅危惧種のタナゴがひとりでに復活していたことを明らかにしました.タナゴの復活は,ブラックバス駆除の成果を物語るとともに,ため池の持つ自然の回復力と,ブラックバス被害からの絶滅危惧種の避難・隠れ場としての重要性を示しています.この成果は2020年8月20日発行の学術誌「伊豆沼・内沼研究報告第14巻」に論文として掲載されています.

 伊豆沼・内沼周辺では,何者かによりひそかに放流されたブラックバスの食害により,2000年(平成12年)ごろまでに,タナゴなど在来の希少淡水魚がほぼ絶滅しました.ブラックバスの影響は周辺の農業ため池などにも及び,多くのため池で在来の淡水魚が絶滅しました.危機感を抱いた地元の「ナマズのがっこう」を中心に,池干しによるブラックバス駆除活動が行われてきましたが,駆除に成功したかどうかについての調査はほとんど行われていませんでした.
 水生生物保全協会は,これまでに池干しによりブラックバス駆除が行われた62ヶ所のため池のほぼすべてを調査し,うち1ヶ所で,タナゴの稚魚が多数生息していることを発見しました(推定個体数は約1750個体).


ため池で発見されたタナゴの稚魚(約1cm).


 この池では2008年から2012年にかけて幾度か池干しが行われてきましたが,その際いずれもブラックバスはたくさんいたものの,タナゴは全く見られませんでした.この池に流れ込む水路の上流には,別の小さなため池があり,そこにはブラックバスの被害が及ばなかったため,タナゴが残っていました.今回見つかったタナゴはここから自然に流れ下って定着したのでしょう.
 ため池の下流にある,伊豆沼・内沼では最近になって,タナゴや,同じく絶滅危惧種のゼニタナゴがわずかずつ戻ってきており,その供給源としてため池が役に立っていると思われます.
 タナゴのような絶滅危惧種を復活させるために,人工繁殖させたものを放流することがよくありますが,むやみに放流すると遺伝的多様性に悪影響があると言われています.今回の成果は,労力をかけず,多様性への不自然な影響を心配することなく,自然の回復力を利用して絶滅危惧種を復活させることができることを示しています.また同時に,ため池がブラックバス被害からの,絶滅危惧種の避難・隠れ場となることを示しています.



ため池でのタナゴの復活とその将来像.

論文表題 オオクチバス駆除後に自発的に再生したタナゴAcheilognathus melanogasterの生息地
著者 麻山賢人・藤本泰文・斉藤憲治
掲載誌 伊豆沼・内沼研究報告14 巻, pp. 81-85(2020年8月20日発行)
pdfダウンロード  https://doi.org/10.20745/izu.14.0_81

解 説

 タナゴ(学名=Acheilognathus melanogaster) 写真左  コイ科タナゴ亜科.5センチほどの淡水魚.他のタナゴ類と区別するためマタナゴとも呼ばれる.関東・東北の太平洋側の川の下流,農業水路,ため池,湖沼などにすむ日本固有種.繁殖期には美しい婚姻色を現し,卵をカラスガイなど二枚貝に産み付けて守らせる.ブラックバスの食害や河川改修などにより激減し,絶滅危惧種となる.宮城県絶滅危惧I類,環境省絶滅危惧IB類,国際自然保護連合(IUCN)絶滅危惧II類に指定.


 ブラックバス(標準和名オオクチバス,学名=Micropterus salmoides) 写真右  北米原産で魚食性の大型淡水魚.スズキに近い仲間.ルアー釣りの対象として全国で盛んに放流された.生態系への悪影響が大きいため,生きた個体の飼育,譲渡,運搬,放流が法律(外来生物法)で禁止されているが,違法な放流が後を絶たない.写真は2019 年の池干しで駆除した個体.

本件の問い合わせ先  (一社)水生生物保全協会
 






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